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深夜の電話
少し前の夜、数少ない書き手の友人と電話で話した。たぶん向こうも私もそのとき底に近い場所にいた。
今は読書が進まない、文章を読んだら、普段ならすぐに情景が具体的に頭に浮かんでくるのに、今はそうならず行き詰ってしまう。なんだか狭い世界にいるみたい。というかなり感覚的な辛さを共有して、それはちっとも笑い事ではないんだけど、こんなことが共通の話題になる場合があるんだ、と奇妙な感動があった。
ストレスだろうな、困ったねと特に何を解決するでもなく電話を切ったが、向こうは基本的に私よりずっと元気で、いつもあれやりたい、これやりたい! という感じの人だから、絶対大丈夫だと思う。
2021/09/03(金)
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失くした人々
小学生の頃、大好きだった祖母が亡くなってすごく悲しかった。それと同時に、誰かの死によって生きている人たちがこんなに何かをわかちあったり、別の事実や関係性を発見するものなのかとすごく驚いた記憶がある。
それに、そういう風にしていいんだ、という驚きもあった。
もちろん結婚式にもそういう側面があるけれど、ちょっと質が違う気がする。
今回もそうだ。私と母はぼろぼろに傷ついているけど、たぶんここ数年で一番、心が通じている。皮肉だけれど、人間が大事なことに向き合えるのは大きな喪失を味わったときだけなのかもしれない。
2021/08/23(月)
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人に見せる顔
家の外に出ている間は、内心無理だと思っていても人に見せる顔ができる。でも、いつもよりずっと疲れていて、家の中に戻った途端、泥のようになってしまう。泣く泥。
それでもそれを文章にできる程度には音も物語も頭に入ってくるようになってきた。ただ、自分が何を観たいのかわからない。今の私には観たいものも聴きたいものも見当たらない。
ちゃんと食事を摂っている。大人だから、どんなに食欲がなくても日に一度はしっかり食べると決めている。
それでもままならないときはお菓子でもなんでも、食べやすいものを食べやすい順に食べる。
叔母が例えばせめて私と同じ世代なら(根本的におかしい話だけれど)もう少し気楽に生きられていたかもしれない。私は物語を書くという方法で、叔母に「もっと許されていい」ということを伝える機会があったはずなのに、できなかったと感じている。
叔母は私の本を何冊か読んでおもしろいと言ってくれていたけれど、それは子供たちの物語で、叔母の物語ではなかった。
私が叔母にできることはもうない。
2021/08/16(月)
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準備
白い小さなレースのハンカチは古くなって捨ててしまったのだった。そう気が付いて、近所の100円ショップに行くと、ちゃんと冠婚葬祭用の白いハンカチが置いてあった。それどころか、数珠やふくさまであった。私はハンカチと靴を入れるためのケースを買った。
火葬場はとても遠いから、移動中はスニーカーで向こうに着いたらパンプスに履き替えようというよくある作戦だ。
最近、本を買ってしまう。追々読むからいいんだけど、たまっている。少し前は、一応読み終えたら買うという順番があったのだが、最近はそれがすっかりうやむやだ。
今、読んでいるのはグカ・ハンの短編集で、その後にはエクリヲと川上弘美の『某』が待っている。
明日は暑くて悲しくてへとへとになるだろうな。
2021/08/05(木)
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箱の中で生きている
叔母が急逝した。叔母は65歳で、千葉でひとり暮らしをしていた。
コロナ渦で色々考えすぎたり、政策のひどさ、状況の悪さに傷ついたりして架空の物語が書きにくくなり、それでも何とか自分の書きたいことを表せる工夫をしていたところだったが、31日の朝早く、母から連絡をもらった瞬間からすべてが止まってしまった。
叔母は日本画を描いていて、家には大きな絵が三枚あったそうだ。
私が本当にいつか書き表したいことは、叔母がいるうちにできなかった。
31日はまったく普通の顔をして一日過ごして、夕方家に戻った瞬間に泣けてきて、喉の奥が轟くように鳴ったせいか、翌朝は少し枯れてしまっていた。
大好きな動物の動画ですら、心が明るい方に動かない。ここまで落ち込んでいるときは、辛く悲しいものを摂取した方がむしろ癒されるのだが、そういう気も起きない。
唯一、大森靖子の『死神』という曲だけに、ほんの一瞬、光を感じる。悔しさの先がちらりと見える。
私の怒りや悲しみがこの先どうなっていくのか自分でも全然わからない。少し先のことを不安に思うことすらできない。
私は生きている何かを抱きしめたい。犬でも人でも何でもいい。
コロナ渦での私はずっと箱に入っている。誰とも触れ合わなければ、私が生きているかどうかなんて私自身ですら確かめようがない。
2021/08/04(水)
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