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ピアス
私だってこれだけ長く生きていれば、内罰的な自分をピアスの穴として控えめに表現することだってできるようになるのだ。クリアな石のついた医療用のピアスは思ったよりずっとかわいい。
あっという間に耳たぶに新しい穴が開いて、うずうず、ずきずきとした痛みを携えて電車に乗るのは楽しかったが、その小さな穴から自分の不安が噴出するような気がした。
誰かと暮らすことはこれまでの生活に相手が足されるのではなくて、根本的に生活を作り直すみたいな話だ。
私はたとえば、家に帰れば会えるのだからという合理に組み込まれるのではないかとか、そういうありがちなことを心配している。ありがちなことは起こりがちなことだから、漠然とした「うまくいかないかも」みたいな心配よりも悩む価値がある。
耳たぶの小さな穴から溢れ、滴っていく不安。そのイメージだけでも、少しは本来の自分の姿に近づいたような気がする。
2022/10/25(火)
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NARSのチーク
去年か一昨年のことだったと思う。あまりにも気が滅入るし、マスク生活が続いて日々の化粧がつまらなく感じていたので、ネットで見かけたかわいいチークを買うことにした。
しかし、私は大体自分が似合うであろう色味の範囲から選ぶので、その時もマットなベージュピンクみたいな当たり障りのない色を買おうと伊勢丹ミラーに行った。
希望の色をタッチアップしてもらい、想像通りだけどまあかわいい、と思っていたら、美容部員さんが「こちらいかがですか、似合いそう」とパールベージュゴールドみたいな色をお薦めしてくれた。
しかし、結構黄色みも感じるゴールドだし、ラメ感が強そうで個人的には自分に似合わなさそうな色味。
でも、美容部員さんが絶対いいと思うというのでタッチアップしてもらった。
ゴールドはゴールドだけど、肌に乗せると黄色みより血色感が出るし、ラメが頬の艶みたいに見えてかわいいし大人っぽい。自分では絶対に選ばない色だけど、案外浮いていない。
結局、その場では決断できずに帰ったのだが、後日それを買った。
私にとって、美容部員さんがそんなふうに提案してくれたことも、それをいいと思って買ったのも初めてのことだった。
なんとなく停滞していた時期に自分では見つけられないような目新しい化粧品を薦めてくれていまだにちょっと感謝している。
その後、似合わないと思っていたベージュや、思い切ったラメ感やパール感のある化粧品もどんどん選ぶようになった。
2022/10/23(日)
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3℃
宿の明かりも見えなくなると、木々に囲まれた道路は真っ暗になった。少しだけ欠けた月だけがぽっかりと明るかったが、頼るにはあまりにも空高く遠くて、湖に近づくのが怖かった。
手を繋いで歩いていると、「人間って変わってるな」という思いがまた浮かんできた。
人間のやることなすことぜんぶ、いつもすごく変わっている。もちろん自分を含めて。
水辺で、ここで人生が終わりだったらとってもきれいだけど、実際はもっと必死に生きて、意地汚く終わっていくだろうと思うと何となくホッとした。
2022/10/13(木)
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理由
子供の頃、夏になると叔母の日本画を見るために銀座のデパートに行った。叔母はある有名な美人画の先生に弟子入りのような感じでついていて、デパートに行くとその先生にも会ってあいさつした。
私にとって、先生は私や母のことを美人だとか、将来モデルになってほしいとか言ってくるただのすけべな爺さんで、その爺さんの描く美人画も、日本画のことが全くわからないことを差し引いても決して魅力的には映らなかった。その点、叔母は植物や生き物の絵が上手で、ジジイの絵よりよっぽどうまいのに、といつも思っていた。
門下には叔母の姉弟子のようなおばさんもいて、子供の頃の私の印象では、彼女はすけべな爺さんのやり方を完全に内面化していて、叔母とは全然合わない怖い存在だった。しかし、叔母は日本画を学んでやっていこうと思う以上は、彼らの中で生きていかなければならなかったのだ。
叔母の家を片付けていたらジジイの画集が出てきて、裏を見るとジジイの地元には彼の小さな美術館が存在しているようだった。
あんな人が地元では美術館が立つほど持ち上げられている権威なのだ。まったく絶望的な情報である。
今日、久しぶりに、どうして高校の単位を取り直そうと思ったのか尋ねられて、一瞬固まってしまった。
昨年叔母が自殺して、自分に何もできなかったのは、あらゆる面においての知識不足、応用力不足、つまり自分がバカだから、叔母の世界を少しも良くすることができなかったと感じたからだとは言えなかった。
大体、私が高校卒業資格を得たところで、すでに止まってしまった叔母の世界は変わらないし、これから誰かの世界を良くできるかどうかもわからない。
だいぶ意訳して、コロナ禍で色々止まってしまって、高校の単位を取り直すとしたら、今が最後のタイミングだろうなと思ったのだと皆に説明していて、それは決して嘘ではない。
私はせめて私の世界を、もう少しだけほの明るく見えるようにしたいだけなのだ。たったそれだけ。
2022/08/24(水)
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目覚ましはいつも鳴り止まない
文章を書くことは好きで、あてどない物語も書く。でも、叔母が死んでからは、書いていると時々、自分の両手首から先がいきなりハンマーでぺちゃんこに潰されてしまったような気持ちになることがある。
書きたいことがないわけではないけれど、手がぐちゃグチャだし、痛くてもう書ける気がしない。妄想の中ではそうだ。
実際はちまちま書き続ける。書いては消し、消しては書く。
自分が本当に言いたいことを探しているみたいだ。でもどれも最後には、「こんなことは別に言いたくない」「こんなの本当はどうでもいい」と思ってしまう。
2022/08/17(水)
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