SC1

初めて行く場所だったので、だいぶ早起きして出かけた。服装はいつもの自分よりカジュアルを心掛けた。なんとなくそういう場所だと思っているから。
道に迷いはしなかったけれど、最初に顔を出す部屋がどこだかわからず、門扉に立っていた交通整理役らしきおばさんと受付のおじさんに尋ねた(こういうときだいぶ図々しく出られるようになったのはいいこと)がはっきりとわからず、二階の大きな部屋の中に「すみませ~ん」と呼びかけたら、ぬっと大きな教師が顔を出した。その方に案内され、やっと到着。

ここで本日の場所を確認、名札を取り、時間までに向かう。
最初の二時間はミシンで簡単なエコバッグを作った。まあまあ、かたちになってはいるけれどきれいでもなく、使おうと思えば使えるが、これでなくてもエコバッグはあるし……という中途半端なできだった。その後二時間ほどの間に昼食を摂り、着替え、勝手に化学の授業を聞いた。

ユーモアのあるおじさんの先生は細かく自虐ネタを挟みながら難しそうな式を次々と黒板に書きつけた。
そう、こういう物質は強いんです。それに比べるとこちらは、貯め込むばかりで使えないから弱いんです。私と同じですね。脂肪をため込むばかりで使えない、弱いんです。

その後、校庭へ。幸い、校庭はゴムで、私は新しいスニーカーを土で汚さずに済んだ。

柔らかく軽いボールをラケットで打つとパコッと子気味のいい音がするが、私も相手もへたくそなので、ラリーは全然続かない。お互いがボールを追いかけまわり、異様な運動量になってしまう。
そもそも、準備運動もなければコツを教えるでもなく、いきなりなんとなくやっているだけなのだ。うまくなろうはずもない。あるのは慣れだけだ。

その日、何度か何か尋ねた時、ちゃんと大人の人間扱いされるので驚いてしまった。それで気が付いたのだけれど、私は子供の頃、教師に人間として扱われていないと思っていたようだ。
でも、これは学校が変わったわけではなく、私が41歳の大人になったから、相手を見ての振舞いなのだろうなと思うとやっぱり嫌気がさした。
2021/11/13(土) 記事URL
古いことを引っ張り出して新しく始めた。
私は久しぶりにミシンを触ったり、知らない女の子と軟式テニスをしてくたくたになった。

でも、あの頃と違って、何をするにも好きな服を着て、好きな態度でいて、ずっとひとりでいていいのだ。
それらを終えて家に帰ったら缶ビールを飲んだりもできる。
そういうことがベースにないとできなかったのだ。あの頃は、自分のままではあそこにいられなかった。自分でない何者かであることを、いつも誰かに求められている気分だった。
2021/11/07(日) 記事URL