スライサーで右手の中指の先を削ってしまった。ボウルにはった水の中にスライスした玉ねぎを次々落としていた最中で、私の中指の爪数ミリとその下の皮膚少しが、ほとんど抵抗なくスッと切れてしまった。
独特の違和感があったからすぐに患部を見たが、血が溢れていてどういう状態かよくわからなかった。指先を怪我したことだけはわかったので、もしかして近くに肉片が落ちているかと思ったが見当たらなかった。(病院に行った後で再度ボウルの水の中やまな板周辺を見直したがなかった。)
水で洗い、キズパワーパッドを貼ったが、今後どうすればいいのかわからず、近所の病院に電話して状況を話し、すぐに診てもらうことができた。
大きく切れたわけではないので、縫ったり指を繋げ直すような処置はなく、ただ治るまでばい菌が入らないように気をつけることが大事だと教わり、抗生剤の入った軟膏をもらって帰った。その後、私は玉ねぎを入れるのを諦めたアンチョビ入りのポテトサラダを味付けし、焼肉用の牛肉を焼き、茄子を白だしで焼き浸しにしていた。冷蔵庫にはケーキもあった。
最近節目の日の近くに何かしがちだ。新しくピアスを開けたり(これは意図的だったが)数ミリのサイズのタトゥーについて調べたり。(実行には至っていない。)
もしかすると、ちょっとした楽しいことよりピアスの方が思い出になると思っているのかもしれない。

残念ながら、こういうことがあると自分の体が生きているのだと実感してワクワクしてしまう。斜めにスッと切れた傷口を見ると、人間もちゃんと生き物で、立体なんだと感じる。風邪っぽいときは、喉の痛みも鼻水もひたすら億劫なだけなのに、げんきんなことだ。しかし、しばらく不便が続く。これを言い訳に、きっとなんでも断ってしまえる。
2023/07/19(水) 記事URL
知らない街で朝マックを食べている時、自分が行方不明者になったような気がしてすごくホッとする。
少し薄めでたくさん入った熱いコーヒーと、塩からいソーセージエッグマフィンにハッシュポテト。もそもそ食べているとあっという間にお腹がいっぱいになる。
行方不明者は一人きりでしばらくコーヒーを啜ってぼんやりしてから、現実世界に戻る。
2023/03/26(日) 記事URL
中年女性が冒険の主役であることがこんなにおもしろく感じるなんて、とは思う。私の世代の女性はやはり、若さが失われたら価値がなくなると社会に教えられてきているから、本当はそうでないと頭では理解していても感覚が伴わないことも多い。だから、そういう価値観でないものを見るとそれだけで喜んでしまう。でも、それを差し引いてもすごく良い映画だった。

完成された美しい映画も好きだけれど、これはもう一種類の好きなタイプ。愛と破綻で出来上がっている映画だ。

あれだけ雑多で混沌とした世界観でありながら、主軸の物語はすごくシンプルで胸を打つ。
どのキャラクターも多面的で奥深く、良いところも悪いところもちゃんとある。

どんなにそりの合わない相手でも、違う世界線では寄り添っていたかもしれない。今はうまくいかない愛も別の世界線では絶対的に結び合っていたかもしれない。そういうことを想像できる力があれば「今」も変えられるはずだという信念が全編通して貫かれていた。
2023/03/05(日) 記事URL
いつも本当は何も言いたくなく、見たいものも聞きたいものもないのだ。いつも穏やかで静かな状態が良くて、暇や退屈なんて嘘だと思っている。それがどうしてこんなことになっているのか、いつもわからなくて戸惑っているだけだ。
2023/02/27(月) 記事URL
ここ何日か、叔母の遺品を取りに警察署へ行ったときのことを思い出している。
周囲は民家ばかりの中に突如、ニョキっと建っていた大きな薄茶色の警察署。入り口付近は黒っぽい石造りで重厚感があり、夏場は余計に暑苦しく見えた。
そこに辿り着いただけでも既に汗だくでヘトヘトだったし、私も母もとにかくやるべきことを順にこなしているだけのくたびれた人形みたいだった。

私はあの時期、久しぶりに自分の体が自分のものでないような感覚にずっと襲われていて、それでも外では普段以上にテキパキとなんでもやったが、家に帰るたびに膝から崩れ落ち、喉を潰すみたいに鳴らして泣いた。
叔母の死そのものへの純粋な悲しみよりも、叔母の苦痛や選択に自分が関わっていなかったことやうまく関わりようがなかっただろうことに絶望していた。
今やっていることをすべてやめて、細々と生きているうちに死を願わなくてもどうせ野垂れ死にするだろう。そういう漠然とした「もう人間なんかやってられるか」という考えがずっと頭を巡っていた。

そういう思い出は私を無気力にさせる。自分は本当は空っぽで、何も好きじゃなく、何も信じていないのではないか。
だとしたら、ここにいることすら不誠実な行いに思えてくる。
2023/02/15(水) 記事URL